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アメリカのステーブルコイン法案成立と今後の動向

更新日:4 日前

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7月にアメリカでステーブルコイン関連法案(GENIUS法:Guiding and Establishing National Innovation for U.S Stable coin)が成立しました。本法案を受けて世界最大マーケット規模とユーザー浸透度をほこるアメリカのステーブルコイン関連市場は大きな変化を遂げようと動き出しています。ステーブルコインに係る法整備では23年成立の改正資金決済法(25年に改訂)によって日本が先行していましたが、欧州ではMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)というレギュレーションが25年7月に全面適用。本法によってアメリカが追い付いた形です。本法案の成立により法的な枠組みが整備されたことで伝統的な金融機関もステーブルコイン事業への関心を一層強めています。今回のコラムでは、法案概要や成立の背景・狙い、本法案を受けた主要プレイヤーの動向、日本市場への影響などについてみていきたいと思います




■GENIUS法の概要と設立の背景

同法案は、アメリカで発行・流通するステーブルコイン(海外事業者が発行しアメリカ在住ユーザーに提供する場合含む)ついて、ライセンス制が敷かれ、グレーゾーンが撤廃され統一された基準の元、事業者規制やユーザー保護などへの取り組みが規定されました(※1,2)。主要なポイントを以下に取り上げます。


〇ライセンス:

従前は連邦法の明確な制度はなく、米国外拠点や州独自ライセンス準拠など事業者によって様々であった。成立後は、連邦政府もしくは州当局のライセンス制が必須、発行基準や監督体制も統一


〇裏付け資産義務化:

一部発行体は準備資産開示や裏付け資産無し(アルゴリズム型)など担保資産が不透明な状況。成立後は、発行額と同額(1:1)の裏付け資産(米ドル、短期米国債等)の確保義務や準備資金に係る報告義務。加えて裏付け資産の無い無担保型・アルゴリズム型の新規発行が禁止となった


〇償還義務:

対応にばらつきがあり事業者の定めるところによっており、破綻時の法的優先権は定め無しであった。成立後は、ユーザーが常時米ドルへ換金(即時の償還)できる体制構築やポリシーの公開義務が課せられた。また、破綻時は債務者よりもユーザーへの償還を最優先とすることが規定


〇マネーロンダリング対策等:

従前は、一部事業者はニューヨーク州等の基準に準拠も対応にばらつき。成立後は、すべての発行者が連邦法に基づきAML等の順守、疑わしい取引等の報告義務が発生


<図1: GENIUS法 成立前後の比較>

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同法の背景としては、2022年のテラUSD(アルゴリズム型ステーブルコイン)の暴落など、過去のステーブルコイン市場の混乱や、準備資金の未管理や運営主体の不透明性が市場の不信を生んだという反省があります。また、不正利用等の増加による消費者保護や金融安定性の強化・規制の必要性などが意識されるようになった背景があります。その他、ドル基盤の維持強化、規制を整えることでフィンテック等のサービス参入や新技術開発を後押しし法案名にもある「イノベーション」を促進するなどの狙いをもとに成立しました。これにより、世界最大規模のマーケットは規制・コンプライアンス型へ移行、成熟度を増していくことになります。






■同法の成立を受けたアメリカの主要プレイヤーの動向

主要なプレイヤーである既存事業者(Tether社やCircle社等)や、新規参入を表明した伝統的金融機関、国際ブランド等の決済関連企業の動向を見ていきたい。


〇既存プレイヤー

既存ライセンスの取得有無や発行国などプレイヤーごとに影響はまちまちと推察される。ここでは主要な2つのサービスについて取り上げる。「USDC」を発行するCircle社は米国発行体であり同法の適用を受けてより透明性・信頼性のある発行体としてのポジションを確立していくものと考えられる。また、規制準拠のためのコスト増を打ち返すための新たな収益源(例えば、法人向けのプラットフォームやAPI提供等)確保に注力していくことになるのではないか。一方で、グローバルトップシェアを有する「USDT」を発行するTether社は海外発行体であり、基準準拠に向けたハードルはCircle社と比較して高いことが想定され、米国戦略の見直し等の可能性も考えうるのではないか。


〇伝統的金融機関

従前、規制が不透明であったことから参入に二の足を踏んでいたと推察される大手金融(JPモルガンやバンクオブアメリカ)が参入を表明する(※3)など市場が過熱していく見込み。同法では本体と切り離した事業体での運営がもとめられ、新会社によるAML/CFTなど体制整備も求められていくなど、ビジネスモデルの変革もともなった金融サービスのアップデートが始まると予測される。


〇決済プレイヤー

PayPalやMasterCardは法成立前からUSD建てステーブルコイン運用基盤を構築済み(※4)で、同法を受けてステーブルコインに対応した決済インフラやウォレットサービスなどにさらに注力がなされる見込み。


ルールメイクにより新規参入などが見込まれ健全な競争によるサービスの利便性向上が期待される一方、準備資産(1:1の米ドルの準備が必要なことから、一定規模の資産がない事業者は規模のあるサービス展開ができない)や、AML対策などの仕組み構築や運用コストを鑑みると、事実上、高い参入ハードルが設定されたことになる。足元、JPモルガンやバンクオブアメリカの参入表明で温度感が上がり周辺エコノミーへの好影響が期待されているが過度な規制が重荷となりこの流れがシュリンクしないか注視が必要であろう。





■日本のマーケットへの影響考察

これらのアメリカでの動きを踏まえて日本のマーケットにどのような影響があるだろうか。2つの動きがでてくるのではないかと考えている。一点目は、国際送金に係る取り組みの加速である(下図①)。アメリカの伝統的な金融機関が本腰を入れ始めたことにより国際送金の新たなあり方の議論等が活性化し、従前よりあったステーブルコインによる国際送金の低コスト化、即時化といったユースケースの検討が加速すると考えられる。二点目が米国発ステーブルコインの日本での浸透である(下図②)。前提として、資金決済法により国内での外国ステーブルコインの利用は制限されており、流通には電子決済等取引業者の登録が必要である。足元では25年3月に同第一号としてSBI VCトレード社が登録(※5)。USDCの取扱いが始まったところである。決済分野を中心にアメリカでの存在感と利用シーンが拡大することで日本でも取扱い対象のステーブルコインが拡大、利用のすそ野が広がっていくもの(※6)と推察する。


<図2: GENIUS法成立による日本マーケットへの影響>

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※5 なお、現在国内では、海外ステーブルコインの利用には制限があり1回の利用当たり100万円の上限が資金決済法によって設定。 主な用途としては暗号資産からの退避先、DeFi/GameFiサービスでの利用等があげられる。

※6 足元では、ステーブルコイン(USDC)を担保にした与信枠によるクレカ決済を実現するSlash Card 等のサービスも登場




このように世界最大のステーブルコイン市場であるアメリカでGENIUS法成立によりサービスと規制の2重の構造変化が起きている。アメリカ市場のステージシフトは日本のweb3ファイナンス分野の進展においても追い風となるだろう。


以上



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