web3ファイナンスの調査研究レポート紹介①【ステーブルコイン】
- Shoichiro Tahara
- 7月17日
- 読了時間: 4分
更新日:9月10日

6月後半にweb3ファイナンスに関連する2つのレポートが公開されたので紹介したいと思います。一つ目は金融庁がデロイトトーマツコンサルティングに委託して取りまとめたステーブルコインをテーマにした調査報告。二つ目は万博ウォレット等を手掛けるweb3の主要プレイヤーであるHashPort社と慶応大学によるweb3ウォレットのルール形成に関するレポートです。web3の金融領域における最新の動向を抑えるだけでなく実務面に即した内容になっており今後のweb3エコシステムの在り方や発展に向けた方向性の提言を含む有意義な内容です。まずは、ステーブルコインのレポートについて、個人的に気になったポイント等について取り上げたいと思います。
■金融庁のステーブルコインに関する調査報告レポート
金融庁がデロイト トーマツ コンサルティング合同会社に委託した、「ステーブルコインの健全な発展に向けた分析」調査研究報告書が6月30日公表されました。本レポートは、存在感を増すステーブルコイン(※1)の今後の健全な発展のために実態を把握することを目的としており、金融庁の公式見解ではなく、今後の制度設計や規制議論の基礎資料として位置付けられています。
※1 (同レポートより)
ステーブルコインは従来の暗号資産が抱える価格変動リスクを回避し、迅速かつ低コストな送金や決済を実現できる点が強みであり 個人、企業、機関投資家等による利用が急速に拡大しつつある。その利用範囲は暗号資産取引の決済に留まらず、国際送金、B2Bクロスボーダー取引、デジタル決済、Eコマース等、多岐にわたって導入が進展
同レポートは決済領域の動向を中心にまとめられており、海外ステーブルコイン中心に事例が豊富に記載されています。web3業界や決済業界に関わる者にとって非常に読み応えのある内容になっています。レポート内容から個人的に興味を持ったポイントを4点ほどご紹介したいと思います。
①ステーブルコイン事例の類型
アルゼンチンやスイスのクレジットカードとの連携事例、南アメリカやフィリピンの送金手段としての事例 等が類型化して整理されています。日本とは法規制が異なる点、法定通貨の不安定性を鑑みた代替手段としてのニーズなど、日本にそのまま当てはめることはできませんが、ユースケースが分かりやすくまとまっています。
②法定通貨の代替ニーズ
レポートでは、アルゼンチンやベネズエラなどインフレ率が高く法定通貨の安定性が低い国や銀行口座の保有率が低い国ほどステーブルコインの普及が進んでいる傾向。法定通貨の代替手段のニーズが高いほどステーブルコインは利用される傾向にあるとされています。法定通貨が安定している日本では別の提供価値がマスアダプションには不可決で、例えば、安価な送金コストやインフラ維持費、決済の即時性、ブロックチェーンのプログラマビリティによる商流・物流と金流のリンク、マイクロペイメント 等がユースケースのキーポイントになりうるのではないだろうか。
③マネロン対策等の考慮
不正利用に占めるステーブルコインの割合増加や犯罪手法の高度化の傾向がみられるとされています。不正の検知や対応には、アドレスクリーニングに関する情報の取り込みが重要としつつ、現状では多くの課題があることがレポートされています。既存金融サービスがweb3によってアップデートされるという視点から見ると、AML/CFT対策は不可欠であり、発行から流通・利用といった一連のサプライチェーン上のプレイヤーのサービス設計・構築上の重要論点となっていくものと考えられます。
④クレジットカード国際ブランドの動き
レポートでは、ステーブルコインが普及することで既存の決済ネットワークが侵食される危機感から、フロント部分はステーブルコイン・バックエンドは既存のクレジットカードインフラという組み合わせでクリプトの動きを取り込もうという戦略ではないかとされています。こういった動きは日本のカード会社(イシュアー・アクワイアラ)にはとっても対岸の出来事ではなく、近い将来の自社事業への影響含めて動向を注視していく必要があるでしょう。
いかがでしたでしょうか。次回はweb3サービスの要となりうる「web3ウォレット」に関するHashPort社と慶応大学によるルール形成に関するレポートを取り上げたいと思います。
提供サービス








